ウルトラライトハイキング(以下ULハイキング)のスタイルでトレッキングや登山を始めてから、歩く旅の満足度が格段に上がりました。かつての私は「大きな荷物を背負っている方がかっこいい」と思っていたこともありましたが、もはや昔の重い装備には戻れません。
この記事は、アメリカやヨーロッパなどをULハイキングのスタイルで歩いてみて実感した、ULハイキングの良かったことやマイナス面を紹介したいと思います。
ULハイキングに興味がある方や、装備を入れ替え中の方はもちろん、体力のない年配の方や運動が苦手な方にこそ読んでいただき、自由に歩く旅やハイキングを楽しめるようになってほしい思います。
旅はいつだって自由
ウルトラライトハイキングとは?
ULハイキング≠ULギア
ウルトラライトハイキングの定義は曖昧で、ピタリと言い表した文言は見かけません。ウルトラライトハイキングが、5キロ以下の装備のことなのか、それとも長い距離を歩くことなのか、区別がつきにくい。
ひとつ言えることは「ULハイキング=ULギアを用いた登山のことではない」ということです。ただ単に装備を軽くすればいいという問題ではありません。
他になにか、ハイキングをする際の心意気のようなものだと捉えています。
自由に、自然を満喫する徒歩の旅
ULハイキングとは、「自由に、自然を満喫する徒歩の旅」だと私は考えます。
従来のアルピニズム(登頂を目的とした挑戦)や、山岳部で見かける根性登山とは一線を画します。
自由に軽やかに、自然や寄り道を含め旅そのものを満喫できる旅、それが「ULハイキング」だと考えます。
その旅を実現するために、ULギアや独自のメソッドが存在しています。
半年の旅に終わりを告げる(ゴールまであと1日)
ウルトラライトハイキングにかえて良かったこと
1 、根性登山からの脱却
今までの登山は、「苦しい」「汗臭い」「泥臭い」「大変」というイメージでした。『苦しいからこそ、登頂したときの達成感は素晴らしいものだ』という思い込みもありました。
しかし、そもそも多くの人にとって「遊び」である登山やハイキングに、「苦しくて大変」という感情は必要でしょうか。
ULハイキングスタイルで苦しさを極力最小限にしたことによって、より素直に、自由に、山や歩くことを楽しめるようになりました。
『登山なのに頑張らなくていい』
この感覚はULハイキングの醍醐味だと感じています。
宿に泊まるにもかかわらず大きな荷物(スペインの巡礼者は軽量化に無頓着)
6日分の食料と宿泊装備を一式持っているが軽快(アメリカのロングトレイルはULの原点)
2、 あらゆるものの時短につながる
・荷造りの時短
かつて沢山の荷物を担いでいたときには、荷造りするだけでかなりの時間を費やしていました。そもそも持ち物が多い上、収納する袋を何種類も持ち歩いたり、袋をしまう場所を毎回悩みながら荷造りする必要がありました。
ULハイキングに切り替える事で、荷物の種類が少なくなり圧倒的に装備に関わる時間が減りました。
・捜し物の時短
装備を失くしてしまうことも減りました。山の中で装備を失くしてしまうことは精神に大ダメージを与えます。お気に入りの装備を失くす悲しみは、登山をしたことがある人ならば概ね理解できるでしょう。
装備が多いと、本当に失くしてしまったのか、他の荷物に紛れてしまっているだけなのか、判断がつきません。道具をシンプルにする事により、探す手間が減り、万一失くしたと判明しても諦めが早くつき、代替手段を考えるはじめることができます。
・設営、撤収の時短
道具がシンプルになるため、装備を扱う手間が激減します。例えばタープは設営に時間がかかるイメージがありますが、慣れてしまえばそんなことはありません。ダブルウォールのテントを組み立てる方がパーツが多くかえって面倒くさいと感じます。
脳みそのエネルギーを装備以外に使うことができるため、ハイキングをより楽しむことができます。歩いている最中の考え事もとても捗る上に、安全性も高まります。
以前はテントの撤収に一時間以上かかっていた
どこに何があるか把握するだけでも一苦労
ULハイクにすると日の出で目覚めたあと20分で歩き始めることができる
3、 清潔に登山ができる
額に汗を流しながら酸っぱい匂いをさせて何日も風呂に入らず歩くかつての登山のイメージは、ULハイキングの登場により過去のものとなりました。
・洗濯ができる
ULハイキングに使う装備は概してシンプルな構造のものが多いため、簡単に洗うことができます。例えば登山用のバックパックは、中にフレームが入っていたり、そもそもどういう構造になっているかが想像しにくいため、気軽に洗う気分にはなれませんでした。
しかしULハイキングのバックパックは寸胴型の袋に近いために、これなら洗っても大丈夫という気分にさせてくれます。
ちなみに私は汚れたらネットに入れて洗濯機にかけてしまいます。乾燥も裏返して干すだけで、簡単にキレイにできます。
・そもそも汗をかかない
ウエア類も今までの登山とは比べ物にならないくらい清潔です。メリノウールという素材は匂いの発生を抑えてくれるので重宝しますが、そもそもULハイキングではあまり汗をかきません。
荷物が軽いため、それこそ近所の散歩にふらっと出掛けるように、汗ばむことなく歩くことができます。
・転ばないから汚れない
動きやすくなった事により、転んだり地面に手をついて爪に泥が入る機会も減りました。
これはULハイキングの大きな利点といってもいいでしょう。
シンプルな構造ゆえバックパックもマットもすべて洗える
温泉があったので足を洗う 重登山靴だとこうはいかない
4、知恵がつく、知恵を使うことを楽しめるようになる
少しだけ不便な道具が多い分、ULハイキングに求められるのは己の知恵や知識を最大限活用することです。
例えば、キャンプサイトでペグが刺さらないほど地面が硬かった場合、自慢のタープは通常なら使えません。しかし、少し工夫すれば木のあるスペースに移動してタープを張ったり、自分の荷物を重りにしてタープを立ち上げることができます。
このように、ありとあらゆる知恵と知識を繰り返し使って前に進んでいきます 。ULハイキングは、頭と身体をフルに使った総合的な営みだと言えるでしょう。
あらゆる困難を乗り越える知恵がつく上、困難を乗り越えること自体が、旅の楽しみになっていきます。
狭くてタープが張れないときは、崖でもなんでも使う
広くて一番濡れない場所はテーブルの上
ウルトラライトハイキングのマイナス要素
1、装備の入れ替えにお金がかかる
ULハイキングをするには軽量な装備が必要ですが、これがとてもお金がかかります。
ある程度のところまで突き詰めると、100g荷物を減らすのに1万円以上かかるようになってきます。
しかし、ウルトラライトハイキングギアの定義「宿泊用品を含めて5キロ以下」は実はそこまでお金をかけずに達成することができます。
5キロ以下にすれば、体力に自身のない人でも、ULハイキングスタイルのメリットを充分感じることができます。
左のタープなど10万以上する ULハイカーは動く貨幣か
2、日本の山だと少々恥ずかしい
日本の有名な山域でタープ泊やシェルター泊(テントを用いずタープだけで寝ること、もしくはタープも使わないで寝ること)をしていると、かなり特異な目で見られることになります。今でこそULハイキングが有名になりそういった視線は減りつつありますが、ジロジロ見られることもあります。
短パンやトレイルランニングシューズで歩いていると、根性おじさんから説教を食らうこともあります。
いちいち説明するのも煩わしいので颯爽とその場を避りますが、面倒臭さは正直否めません。
日本でタープ泊をしていると高確率でとやかく言われる 余計なお世話だと申し上げておきたい
ウルトラライトハイキングの世界へようこそ
ULハイキングは、ギアマニア向けのニッチな世界ではありません。
すべての人が気軽に歩くことを楽しむためのスタイルです。
そのため、年配の方や体力のない方こそが主役です。
今までとは違う、跳ねるように山を駆け回る爽快感を味わってみませんか?