ウルトラライト(以下UL)ハイキングを始めるにあたって、簡単に軽量化できるのがバックパックです。一般的なバックパックは1kg以上ありますが、ULバックパックは500g前後、軽くて200gのものもあります。
ULバックパックはペラペラで、一見取り扱いが難しく見えるかもしれません。
また、一般的なメーカーのものと比較するとポケットの類も少なく、「これで実際に登山で使えるの?」「不便はないの?」と疑問を持つ人もいるかと思います。
この記事では、ULバックパックの中でも、とりわけ面倒くさそうに見えるパッキングについて解説したいと思います。
ULデビューしてみたいけれどやはり不安だからと、大手メーカーのものを選ぼうとしている方に読んでもらえればと思います。
面倒くさそうに見えるが慣れればかんたん
ULバックパックを選ぶメリット
ULバックパックの特徴は、バックパック自体の形状を安定させるフレームが入っていない点です。この形状のバックパックを「フレームレスバックパック」「フレームレスザック」と呼びます。
また、バックパック内部が細かくポケットで区切られていない「一気室」であることも特徴です。
ULバックパックを使用することによって様々なメリットを享受できます。
①圧倒的な軽さ
そもそもフレームの役割は、バックパックの形状と背負い心地を安定させるためのものです。そのためフレーム自体に剛性が必要で、当然質量もあります。
ULバックパックはフレームがなく、ほとんど布とプラスチックパーツで構成されているため軽量です。
従来のバックパックにはフレームが内蔵されているため重い
②無駄がないため行動がシンプルになる
一般的なバックパックは雨蓋、内側、外側、底、背面など様々な場所にポケットや便利な機能がついています。
単純に機能がたくさんついていると使用されるパーツが増えるため質量増につながります。
また、ポケットがたくさんあることは登山ではデメリットにもなります。
収納箇所が増えることにより、ジッパーの開け締め、分類に時間がかかり、撤収や休憩に時間がかかってしまいます。どこに何をいれたかわからなくなることもあるでしょう。
しかし、そもそも荷物が少なければ分類する必要もありませんし、シンプルに行動できます。
③単純な構造であるため洗いやすい、修理しやすい
一般的なバックパックの構造を理解している人はかなり少数かと思います。
どこにフレームが入っているのか、そもそも何でできているのか、どこを引っ張ると破損につながるのか、構造が複雑なため容易には想像できません。
しかしフレームレスザックはシンプルな形状のため、「これだったら手洗いできる」「ここに負担を掛けたらまずそうだ」などがひと目で分かります。
もし穴が空いてしまったとしても、どこを補修するべきなのかがすぐに分かります。
ULバックパックを選ぶデメリット
通常のバックパックであれば、特に何も考えずに荷物を入れてもザックとして背負うことができます。しかし、フレームレスザックの場合は少しだけ気を使う必要があります。
一般のザックのように荷物を詰め込んでしまうと、背中に固い荷物が当たったり、バックパックが斜めに傾いたり、歩いているとカタカタ物音がするようになります。
フレームやザック自体の硬さがないため、なかの荷物の形をダイレクトに反映してしまうのです。
このデメリットさえ克服することができれば、ULバックパックのメリットを享受できるようになります。
背負いやすさだけではなく、見た目にもこだわりたい
フレームレスザックのパッキング方法
ULバックパックの基本形は、ただの寸胴の袋に背負う機能をつけただけのものです。寸胴型の袋をそのまま背負うと不具合がありそうなのは容易に想像できます。
安定した背負い心地を得るためには、一般的なザックに付属しているフレームとは別のもので、擬似的にフレームを作り出す必要があります。
簡単でもいいのでフレームがないと、背中とバックパックの間に隙間ができてしまったり、パッキングに極端に時間がかかるようになります。
ここでは、フレームの代わりになるものを順に紹介していきます。
1 クローズドセル式のロールマットを筒状にして入れる
2、ザック内側の背中側にパッドを入れる
3、ザック外側の背中側にパッドを入れる
4、小さめのパックライナーに荷物を詰め込む
ザックに収納する荷物
ロールマットや座布団を使ってなんとか背負いやすさを確保する
1、ロールマットを筒状にして入れる
上の写真のように、ザック内部にロールマットを筒状にして入れ、擬似的なフレームを作り出します。丸まったロールマットの内側に荷物を放り込めば、簡単に安定した形状を得ることができます。
この方法はウルトラライトハイキングの指南書では必ず載っていますし、ULザックのパッキングと言われたらこの方法を思い浮かべる方も多いと思いますが、実際のところとても使いにくいです。
メリット
- フレームがしっかりしているため内部のものの硬さを感じない。
- フレームありのバックパックのようにものを適当に詰められる、結果行動が早くなる
デメリット
- ちょうど背中の真ん中の部分が縦に膨らむため背負心地が悪い
- 容量が極端に減る
実際の使用感
ロールマットをザック内部に入れると、当然ロールマットの体積の分だけバックパックの容量が減ります。その結果荷物がパンパンになり、背中の部分が真っ平らにならず膨らみ、背負い心地が極端に悪くなります。
ロールマットがクタクタになりますし、荷物の出し入れもしにくく、私はおすすめしません。
逆に、きれいに荷物を入れるのが苦手な人、パッキングに時間をかけるのが面倒くさい人には向いていると思います。
背負い心地はあまり良くない
2、ザック内側の背中側にパッドを入れる
硬めのパッドをザックの内側にいれフレームを作ります。ULザックにはあらかじめパッドを入れるスリーブがついているものもあります。
メリット
- 形がかんたんに維持できる
デメリット
- パッドを使いたい場合荷物を全部取り出さなければならない
- ザックの容量が減る
- エアーマットの場合はパンクの心配が増える
- 専用のスリーブがないと、内側でパッドが動く
実際の使用感
外側にパッドをつけることができないザックの場合にこの方法を使います。分厚いものをいれると容量が減るのはロールマット同様です。
一度パッキングしてしまうとマットが取り出せないのがデメリットです。
専用の硬めのパッドをスリーブに入れっぱなしにしておけば、有効な方法だと思います。
エアーマットを入れる場合はパンクに注意する必要がある
3、ザック外側の背中側にパッドを入れる、つける
ULザックのなかには、ザックの外側にパッドを入れたり、ゴムや細引きをつかって簡単にパッドを取り付けたりできるものがあります。
座布団をパッドの代わりに使うと、行動中はザックのフレームとして、休憩中は座布団として、二通りで使うことができます。
メリット
- 行動中に使うものと併用できる
- ザック内部の容量を減らさずにフレームを入れることができる
デメリット
- 荷物をパンパンに入れているとパッドの出し入れがしにくい
- パットが汗臭くなる
実際の使用感
一石二鳥のため、外側に収納スペースが有る場合はこの方法を使っています。バックパックと体の間に一枚パッドが入るため、ザック本体が臭くなりにくいような気もします。
外側にZ-seat(座布団)を入れておけば、お尻を汚さず休憩できる。
4、パックライナーに荷物をつめてフレームに見立てる
パッドがない場合や、座布団さえも軽量化したい場合はこの方法を使います。20リットル程度のパックライナー(防水袋)に荷物を固めに詰めて、太いフレームを作り出します。ザックの形がスマートに見えるのが大きなメリットです。
メリット
- バックパックの形が小さくきれいに見える
- 座布団やスリーピングザックをフレームに使わなくてすむ
- 内部の荷物が濡れない
デメリット
- 順番を覚えるまでパッキングに時間がかかる
- 開け締めが面倒くさい
- 背中がややゴツゴツする
実際の使用感
なんと行ってもザックが小さく見えることが最大のメリットで、小さく見えると気持ちがよいものです。朝の収納さえきちんとすれば、一日形を維持することができるのでおすすめです。
この上に食料袋をのっけてザックを閉じる
自分のハイキングスタイルにあったパッキングを
私は、「3 ザック背面の外側にパッドをつける」「4 パックライナーに荷物をつめてフレームに見立てる」を併用しています。色々試行錯誤しましたが、「なるべくザックを小さくする」ことを優先したために、この方法にたどり着きました。
撤収の素早さに重きを置くのか、ザックをきれいに見せることに重きを置くのか、背負心地を大切にするのかによって、自分なりのパッキングスタイルを導き出すのが大切かと思います。
パッキングが成功すると、バックパックが自立する
その他のパッキングのコツ
使わないもの、汚したくないものを下に
寝袋やシェルターなど、普段行動している際には使わないものをバックパックの下の方にいれます。
取り出す必要のないものは朝と夜以外は動かさないことによって、一度済ませたパッキングをきれいに保ちます。
小さな収納袋を増やさない(同じカテゴリのものは同じ袋に収納する)
魅力的な収納袋がたくさん販売されているため、便利だと思ってつい購入してしまいますが、袋が増える分収納の手間が増えます。
例えばタープと蚊帳とペグを別々の小袋に入れていた場合、急な雨が降ってきたときにバックの中から3つの道具を取り出さなくてはなりません。一つの袋に入れておけば、一発でタープを張ることができます。
カテゴリごとにざっくりと大きな袋に入れておいたほうが、取り出す手間も減り、ザックの形もきれいになります。
ザックに隙間をつくらない
一番下の寝袋やシェルターは、単体でザックの底のスペースを専有できますが、スリーピングマットや調理器具は小さいため並べて収納する必要があります。きれいに並べて隙間を作らない事によって、ザックを小さく見せることができます。
出発の際にきれいにパッキングできると、その後も快適に歩くことができる
パッキングは慣れれば楽ちん
ULバックパックを使う上でとっつきにくいパッキングですが、面倒くさいのは最初だけです。
慣れてしまうと一般的なポケットがたくさんついたザックのほうが面倒くさいと感じるようになります。
フレームレスバックパックを扱う手間よりも、享受できるメリットのほうが遥かに多いです。
シンプルで不便な道具も、あれこれ工夫することで立派な登山用具になります。