この記事は「日本を縦断するロングトレイルの可能性を模索する」実行編です。
計画編は以下のリンクをご覧ください。
「日本を縦断するロングトレイルの可能性を模索する」計画編では、GPSのトラックデータを作成し、実際にトレイルを歩けるまで準備しました。
装備や食料の計画などを考え、荷造りをし、飛行機のチケットを予約。どんな旅になるのか、どんな景色を見れるだろうか、ワクワクしながら準備したことを覚えています。
下の画像は、トレイル周辺にある観光名所や名峰を記してあります。こんなに沢山の名所を一気に歩けるなんて実に贅沢。
2014年にアメリカのロングトレイル、Pacific crest trailを踏破した次の年の春、2015年に旅をスタートさせました。
様々な山脈を越えていく 国立公園や見どころも多数
実際に行ってみた
ワクワクしながら移動
実家のある栃木県から羽田空港まで移動、そこから国内線に乗って九州へ。飛行機での移動のため、海外のトレイルを歩く気分。
今思うと、トレイルに対して期待値を上げすぎていたのかもしれません。バスを使い、旅のスタート地点の海岸に到着しました。
つかの間の楽しみ
まずは最初のトレイルである九州自然歩道に合流するために車道を歩きます。
5000kmのルートには、九州自然歩道と東海自然歩道が含まれています。この歩道は長距離自然歩道といい、1970年以降に環境省が整備してきたルートです。なんでもアメリカのロングトレイル、アパラチアントレイルを参考にして作ったらしく、日本全土に網目のようにルートが存在しています。
実際に九州自然歩道に合流すると、あちこちに長距離自然歩道の看板がありテンションが上がりました。
まさかの敗退
最初の名峰である霧島山を降りた頃からでしょうか。
「歩くのをやめて帰りたい」という思いが浮かんできました。その思いは歩き続ける度にどんどん膨れあがり、道端のバス停でバスに乗りスマートフォンで飛行機のチケットを取り、翌日にはそそくさと実家のある栃木に帰りました。
旅が始まってまだ5日目のことでした。
どんな旅が始まるのかワクワクしながら飛行機に乗り込む
ちゃんと整備されているじゃん!と思ったのは一瞬
謎のB級スポットを楽しめるのも日本ならでは
一週間もせずに撤退を決意
失敗した原因を探る
溢れんばかりの後悔を秘め、家に帰りました。半年間の予定が全て無くなり、どうしたものかと戸惑うばかり。運よく働き口が見つかったため事なきを得ましたが、当時は宙ぶらりん状態に結構ショックを受けました。
せっかく計画したトレイルなのになぜ離脱を選んだのか、理由を以下に記します。
人の目が気になる
リュックサックを背負って歩いていると本当にジロジロ見られます。
生活道に旅人風情の人がいたらつい見てしまうのは当たり前だとは思います。しかし、前年度に歩いたアメリカではそんな思いを全くせずに堂々と歩いていたため、衝撃でした。
何か私が悪いことをしているかのような気分になり、いたたまれなくなったのを覚えています。
キャンプ地がない
日本では指定されたキャンプ地以外ではテントで寝ることは禁じられています。人のいないところでビバーク(緊急時に命を守るために野外で寝ること)は認められてはいますが、テントを張ったところでいつ人が通るかはわかりません。
野営地を探すことが困難であるという予想は事前にしていましたが、そもそも人目につかない場所が余りなく、あったとしても全く安心して眠ることができませんでした。
道がない
「九州自然歩道という名前があるくらいだから多少整備されてなくてもなんとか歩けるだろう」、「車道が多くても多少は平気」という気分で歩き始めましたが、全くの甘い予測でした。
道自体が完全に消滅しているルートが多くあり、その迂回のために幹線道路を歩き、道路沿いのキャンプ地をなんとか探す、というサイクルに疲れ果ててしまいました。
雨が多く暑い
旅を始めたのは始めたのは4月の終わり頃だったと記憶していますが、九州の気候を完全になめていました。雨が多く蒸し暑い、歩くには根性が足りませんでした。
日本語も通じスマートフォンもあり、飛行機でいつでも帰れるのも原因でした。これが海外だったらもう少し我慢して歩いていたと思います。結局我慢できず早々に音をあげました。
アメリカ人がアメリカのロングトレイルをすぐ離脱する理由もよくわかりました。
人の目を気にしながらキャンプ 気が休まる瞬間がない
夜遅くにキャンプして、日が開ける前に撤収
そもそも道がない
失敗して日本のトレイルを思う
歩くことを楽しむ文化を
ヨーロッパやアメリカのトレイルを歩いてきていつも感じることがあります。ロングトレイルが有名な国々では、「歩くことが生活にとって欠かせないもの」「歩くことは楽しいこと」という文化があります。
それに対して日本の登山やロングトレイルは「一部の山好きの遊び」や「休日のレジャー」といった感覚です。
「歩くこと」が生きる上で欠かせない日常になればいいのに、そうすればもっと人生が豊かになるのに、と今まで沢山歩いたからこそ思います。
これは私がchant!というブランドを立ち上げた理由でもあります。
異質なものを排除する文化から脱却
アメリカでは半年間のロングトレイルの挑戦は勇気を讃えられ賞賛される行為です。しかし日本では、半年間も歩いていると変な目で見られますし、遊び呆けている人をけしからんと思う人もいます。
ロングトレイルには、そういった日本の文化から、脱却へと導く力があると思います。
アメリカのトレイルに人が集まるのは、本気で遊ぶ人を支える文化があってこそ
どんなトレイルにしたいのか、流行りに流されないトレイルづくりを
数年前から日本ではロングトレイルがブームのようで(そろそろ下火でしょうか?)、みちのく潮風トレイルを筆頭に、現在もさまざまなトレイルが整備されています。
ただ既存の登山道を繋げたトレイルではなく、誰にとっても歩きやすいトレイルが整備されたらなと思います。
今回失敗した日本を縦断するロングトレイルの完成は私の夢です。
50年後?には海外から沢山のスルーハイカーが歩きに来るようなトレイルを、ロングトレイルの道具を作るブランドを通して、模索していきたいです。